自縛ロボ【文書のみ】
🕑 Added 2021-11-01 09:02:02 +0000 UTC
「あっ……ンんっ……」
部屋の中にガチャガチャと金属音が鳴り、呼応する様に艶かしい呻き声が響く、二つのハーモニーに掻き消されそうになりながらも、低音の振動がヴィヴィッ……ヴィィ……とベースを担っていた。
「ぁっ……」
やがて最後の呻き声を合図に協奏曲は終わりを迎え、静まり返った部屋には低音の振動だけが相変わらず不規則に響き続けていた。
「物足りないな……」
ゆいは誰もいない部屋で呟いた、後ろ手に掛けられた重厚感のある手錠、パンツの中で未だ暴れ回るローター、傍からみれば何かの事件に巻き込まれたのかと勘違いしてしまいそうな状況、これがゆいの誰にも見せない日常だった。
もっと厳しく自由を奪われたい
小学生の時友達に縄跳びで縛られた事がきっかけだった、その時は何を感じるでもない日常の一ページだった思い出は、ゆいがいくつ歳を重ねても鮮明に残り続け、身体と心が成長していく度に形を変え、高校を卒業する頃には性癖として定着していた。
大学生になり一人暮らしを始めてからはネット通販でSMグッツを買い漁り、休みの日や深夜には自力で外せる手錠などの拘束具を身につけオナニーを楽しむ様になった。
「はぁ…私もこんな風に縛られてみたいなぁ」
スマホ画面には麻縄により厳重に縛られた女性の画像が映し出されている。
ゆいが本当に望むものは手錠ではなく、麻縄による緊縛だった。しかし自分で自分を縛ることは難しく、縛れたとしても少しもがけばすぐに解けてしまう、高校生の時には出来なかった手錠を使ったオナニーに最初は高い快感を得ていたが、強い憧れは徐々に快感を鈍化させ、最近では虚しさすら感じ始めるようになっていた。
「何かないかなー」
ゆいはSMグッズを購入しているネット通販サイトをなんとなく眺めた。アームバインダー、手錠、麻縄、様々なデザインの拘束衣、何度サイトを巡って見ても見つかるのは見慣れた商品ばかりだ。
「ん?」
一通り商品をチェックしサイトを閉じようとした刹那、突如画面の下に広告バナーが出現した。
「自縛ロボット」あからさまに怪しい赤黄の文字で確かにそう明記されている。魅惑のワードに釣られてゆいがバナーをタップするのに時間はかからなかった、タップした瞬間スマホ画面は真っ黒に変わりぐにゃっとした小洒落たフォントの白文字が画面の上部に浮かび上がってきた。
貴方の下へ自縛ロボットを送りますか?続いてその下にYES、NOの選択肢が表示される。
「何これ、ちょっと気持ち悪いな」
明らかに通販サイトではない不気味なページをゆいは閉じようとするが、またしてもタイミングよく文字が現れた。
このページは閉じれば二度と開く事ができません、その文字の下には三秒のカウントダウンが表示されていた。
「あっ……」
ゆいは思わずYESの項目をタップしていた。彼女はオカルトを信じるタイプではないが、二度と開けないという警告と僅か3秒と言う短い思考時間がゆいをYESの選択肢に誘った。
「押しちゃった、大丈夫かな?」
タップされたYESの文字が少し凹んだ様なアニメーションを表示すると5秒程経ってページを開いていたアプリが落ちた。
「あれ?」
もう一度アプリを開いてみるが、すでに自縛ロボットのページは表示されておらず、視聴履歴を調べてみてもその痕跡は見当たらない、一応改めて「自縛ロボット」で検索してみるが、同じサイトは見つからなかった。
「悪戯かぁ、まあ分かってたけど」
こうなってくると、YESの選択肢を選んでしまった事への後悔が強くなってくる、冷静になってみれば自縛ロボットなんて存在する訳がないのに、もしこれでクレジットカードなどの個人情報が盗まれたら目も当てられない。
「考えたって仕方ないよね」
まだ何も問題は起きていない、例え起きてもエッチなバナーに引っかかったなんて誰にも相談できる訳がない。
「よし、お風呂入って寝よ!」
ゆいは不安を振り払う様に勢いよく立ち上がるとスマホをベッドに放り投げその日の性行為を終えた。
………………………………………………………………
3ヶ月が経った、恐れていた様な個人情報の流出などは起こらず、ゆいは自縛ロボットの事などすっかり忘れて過ごしていた。
「暇だな……」
ゆいはベッドに寝転がってダラダラと動画サイトを眺めていた、三連休の真ん中ともなるとみんな出かけている様で休日だと言うのに、両隣の部屋は人の気配がない。
ピンポーン
うとうとと二度寝モードに入っていたゆいの耳を甲高いインターホンが貫いた。
「はーい」
寝起きで掠れた声で返事を返すとゆいは小走りで玄関に向う、この炎天下の中玄関に配達員を待たせるのは申し訳ない。
「はい」
「お届けものです」
「(あれ?何か頼んでたっけ?)」
配達員の横にはスーパーの買い物カゴより少し大きいくらいの黒い箱が台車に乗せられていた。
「あの、間違いじゃありませんか?」
実家からの差し入れにしても、あんな入れ物に入れてくるなんて明らかにおかしい。
「確かにここなんですけどね」
配達員の男に差し出された用紙には確かにゆいのアパートの住所が記載されていた。
「……そうですか、分かりました」
代引きではないようなので、ゆいはとりあえず受け取りを承諾することにした。
「かなり重いから、玄関に下ろすの手伝いますよ」
「あっ、ありがとうございます」
ゆいが反射的にお礼を言っている間に配達員の男は、半開きの扉を開けきると玄関の淵に箱を下ろした。
「もし何かあったらここに連絡してください」
男は配送会社のチラシを取り出して、お問い合わせの電話番号にボールペンで線を引くとゆいに差し出す。
「分かりました、丁寧にありがとうございます」
「おもっ!」
ゆいは玄関に下ろしてもらった箱をとりあえず自分の部屋にでも運ぼうと手をかけて見るが少しズラす事はできても、玄関にある僅かな段差を超える事すら難しそうだ。
「仕方ない、ここで開けよう」
箱の左右のロックを外し、中身を確認してみる。
真っ先に目に飛び込んできたのは、箱の中に入れられていた数枚のA4くらいの紙だったそこに書かれていたのは、
「自縛ロボット………」
紙を退かすと箱の中には金属のパーツがビッシリと詰まっている。
「嘘……」
改めて一番上に入っていたA4紙を見てみると、裏面には説明書と思わしき文字とイラストが書き込まれていた。
何故住所が特定されているのか、この機械は本当に自縛をしてくれるのか。不安要素は色々あるがゆいの頭の中は一つの事で埋め尽くされていた。
「(試して見たい!)」
むしろスピリチュアルな展開なだけに期待感の方が大きい、ネットで見てきた数々の緊縛写真がゆいの脳内をぐるぐると巡った。
早速ゆいは夢のロボットの組み立てに取り掛かった。
………………………………………………………………
「できた!」
寝室の壁際にロボットが完成していた。
難航するかと思えた組み立て作業だったが、箱の中のパーツはそれほど多くなく、特別な道具や知識を必要とするものもなかった為2時間ほどでなんとか完成させることができた。
自縛ロボットと聞いてなんとなく、ペ◯パー君の様な人型のロボットができるとゆいは思っていたが、実際に出来上がったロボットは三脚のように均等に伸びた足に支えられて太いポールが肩くらいまで伸びその先端にカメラ、その少し下には人間と同じような関節と五本の指をもったアームがニ本生えた、工場で使われている様な無機質で洗礼された見た目をしていた。
「えっと、起動するには……」
説明書によれば電源ボタンは無くコンセントを刺す事で電源が入り、その後は付属のリモコンにて操作できる様だ。
早速ゆいがコンセントを差し込むと、ポールの両サイドにダラリと垂れていた長いアームが僅かなモーター音を響かせ手術を始める医師の様なポーズへと変化した。そこからはロボットのパーツと一緒に入っていたスマホの様な液晶とボタンが一つ着いた端末で操作する様だ、サイドのスイッチを二秒ほど押し込むとメーカーロゴなどの表示も無くパッと文字が浮かび上がってきた。
縄をロボットに渡してください
ゆいはほとんど使ってない麻縄をカバンから四束取り出し、ロボットの前にかざした、ニ本のアームが器用に縄束を受け取ると、リモコンの画面が変わった。
「高手小手、亀甲、逆海老も……」
表示されたメニュー画面にはゆいがずっと憧れていた名前がズラリと並んでいた。
「私本当に縛られるんだ」
ネットで何度も見てきた単語の羅列にロボットを組み立てつつも半信半疑だった気持ちは一気に吹き飛び、身体は興奮し始める。
「やっぱりこれがいいな」
ゆいはメニューの中から菱縄縛りを迷わず選択した、全身を這い回る縄化粧の美しさに高い拘束力、緊縛というワードを知り初めてネットで検索してみた日からずっと憧れていた縛り方だった。
画面は切り替わり、股縄、膝、足首、閂、とオプション追加のリマインダーが表示された。
「当然、全部追加だよね」
ゆいはオプションを全て選択してOKボタンをタップした。
リモコンの表示
菱縄縛り
・閂 有
・股縄 有
・膝の拘束 有
・足首の拘束 有
ロボットの前に背を向けて立ってください、足を縛る際は椅子を用意して下さい。
縛りを解く時はリモコンのボタンを押してからもう一度ロボットの前に立って下さい。
ゆいはリビングから椅子を持ってくるとリモコンをベッドに放り投げロボットに背を向ける、はやる気持ちが抑えられないという様に両腕は自然と後ろに回っていた、そんなゆいの心情を察しているかの様にロボットは右手に持った縄束を素早く解し、すぐさまゆいのクロスした前腕に縄を巻きつけ始めた。
跡がつかない為にと着替えたジャージに縄が食い込む、胸に縄にお腹に、ロボットは効率よくゆいの身体を拘束していった。
「ん……」
まだ上半身の拘束も途中だというのに、ゆいは身体をモジモジと動かし落ち着かない様子だった。
お腹に菱形の模様を描き最後に股縄を通して軽く食い込ませた所で上半身の縛りは完了。回れ右して用意しておいた椅子に腰掛けると一度止まっていたアームが動き出し膝下と足首の二ヶ所を拘束していく。
「器用に縛るなぁでもちょっと気持ち悪……」
上半身を縛られているときと違って足を縛られる際にはアームの動きを観察する事ができる、ニ本のアームは無機質な見た目に反し手首から先だけは人間宛らだった、その不気味な光景に多少の嫌悪感を覚えつつも感嘆している間にゆいの膝下と足首は束ねられ一本にされてしまう。足を縛り終えるとニ本のアームは電源を入れた時のポーズに戻り動かなくなった。
「これが菱縄縛り……」
閂、そして胸縄と一体となり上下に施された菱形の飾り縄がゆいの胸を衣服の上からはち切れそうなほど強調し、お腹にもう一つ菱形模様を描き股を通るとお尻のラインにピタリとそって背中の縄目へと合流している。全ての縄が緩みなく巻きつく一死乱れぬという言葉が似合う完璧な縛りだった。
ゆいは椅子からベッドに座り直し、もぞもぞと身体を動かしながら、初めて自分に施された緊縛を眺めていた。
「ん……これ…ちょっと動いただけでも、気持ちい……ぁっ……」
身を捩るたびに全身の縄が軋みゆいの身体を快感が突き抜ける。
「ん……ダメ…縛られた……だけなのに……」
ゆいはベッドに身を投げ、溢れる快楽に身を任せる様に激しく身を捩らせ始めた。
「ん……んんっ……」
ギチチチ……ギチギチ……
すぐにベッドをのたうち回るゆいの身体は、ビクビクと痙攣し始める。
「んっ…んん!……もう………っ……」
緊縛が完了してからまだ5分も経たぬ内にゆいは絶頂を迎えた、止まらぬ快感に身体をくの字に曲げたり伸ばしたり、忙しなくくねらせる。
「はぁ…はぁ……はぁ……」
ゆいは力なくその身を横たえた、冷めやまぬ快感の余波を受けまだ全身が脈打っている。
「はぁ…緊縛、凄すぎ……」
ゆいは改めて全身を這い回る縄を見つめた、興奮し未だに乱れ気味の呼吸と連動し胸縄が上下に動いていた。
「ちょっと疲れたし一旦解こうかな…………あれ?リモコンが無い」
縛られる前確かにベッドに放り込んだはずのリモコンがない。
「落ちちゃったのかな?」
ベッドの淵まで這っていき身体を起こして床を探してみるもどこにも見当たらなかった。
「えっ?どこ行っちゃったの?」
この短時間になくなる様なものではない、ゆいは不自由な足でタオルケットや枕を退けもう一度ベッドを探し始めた。
「おかしいな?床には落ちてなかった…し……」
ゆいの視界にブルーライトがチラリと映った、同時に言葉を失う。リモコンはゆいが悶えている間にベッドと壁の僅かな隙間に落ちてしまっていた。
「あんな所に……」
リモコンを取るにはベッドを退かすしかないが、全身を緊縛されたゆいにそれを望むのは不可能なことは言うまでもない。
「これ、どうやって解けばいいの?」
ゆいは上半身に視線を落とす、ロボットの前の椅子に移動して反応がないか試みるがロボットは微動だにしなかった。
「どうしよう……」
途方に暮れつつも一つだけ解決策はある、誰かに助けを求めればいい、幸いスマホは机の上にあるし大声を上げれば誰か気づいてくれる、しかしそれは相当受け入れ難い行為、ゆいは緊縛姿で友達と対面する火の出るような展開を想像してみる。
「抜け出さなきゃ」
ゆいは自力での縄抜けを決意するが、全身を締め付ける縄目はとても女の子の力で緩んでくれるようには見えない。
濃厚に感じる最悪の結末に、あれだけ身体を興奮させていた縄の締め付けが今のゆいにはただただ忌々しく煩わしいものへと変わっていた。
「んっ…くっ……」
両腕を強引に動かそうと、力を込めるとギッ……と乾いた音を立てて縄が軋んだ、ゆいはあらゆる方向に力を込め両腕を自由にする活路を探すが、完璧な菱縄縛りは一切の余裕を与えてはくれず、背中で組まれた両腕はピクリとも動かない。
「んっ……ダメ全然解ける気がしないよ、そうだよね、閂と股縄もされてるんだから……何で私こんなにキツい縛り選んじゃったんだろ、そもそもリモコンを他の場所に置いておけば……」
解けぬ縛りに負の感情が湧き上がるが、最悪の現状は変わらない。
「諦めちゃダメだ、兎に角もがいていればどっか緩んでくるかもしれないし」
ゆいは本格的に力を込めて身を捩らせもがき始める、自分に悪態をついた所で始まらない、確かなことはこのままでは最悪の結末が待っているということと解決するには縄抜けを成功させるしかないという事だけだ。
「ふっ……んっ…………このっ……」
ゆいは胸を逸らしたり、捻ったり、肩を上下に動かしたりと、縄を解くというより緩めて強引に抜け出そうと大きく身体をもがかせた。
「んんっ……」
当然ちょっとやそっともがいたくらいでは縄はびくともせず、キリキリと軋みジャージ越しにゆいの身体に食い込むだけだったが、両手を深く組まされた状態では、手首を返し背中の中心にある縄目を掴むことは厳しい、分が悪いことは分かっていても、ゆいができる抵抗は力尽くで縄を緩める事だけだった。
「くぅ……んぅ………くっ…この……」
ゆいは縄が緩んでいるかを確認するように時々身体に巻きつく縄に視線を落としながらもがいた、身を捩る度にその身体に吸い付くように縄の菱形模様が僅かに形を変える。
「つっ……んっ……ん……」
縄に緩んだ様子はないが、すぐ緩んでくるとはゆいも思っていない。
今は何も変わってないように見えても、必死の抵抗は縄にダメージを蓄積させているはず、ひたすらもがき続けていればいつか何処かが緩んでくるはず、そんな淡い希望にしがみつきゆいは必死に身を捩らせ続けた。
「んぅぅ……っ……くっ……」
………………………………………………………………
「んっ……くそっ……こんなの解けるわけない……」
ゆいは何度も何度も力を込め、身を捩らせ、懸命に縄抜けしようともがき続けていたが、胸縄も飾り縄も全く緩んだ様子はなく、無駄な足掻きをしているとしか思えない状況だった。
「やっぱり、縄抜けはできないか……あっ」
解けなければ切ってしまえばいい、足を厳重に縛られていたことでゆいは自分が移動できることを忘れていた。
「キッチンに行けば、包丁や鋏がある」
ゆいは早速両足跳びでキッチンを目指し歩を進めた。一歩ごとにふらつく身体を何とか支えながら、飛び跳ねるというより両足を滑らせる様に進んでいく。
「忘れてた……昨日ここに置いたんだった」
本来であれば下の観音開きの扉の内側にあるはずの包丁と引き出しにあるはずのキッチン鋏は、洗い終わったまま目線よりやや上の吊り下げラック上に放置されていた。
普段ならただ手を伸ばして取れば良いが、全身を緊縛され真っ直ぐ立つことも難しい今のゆいには、目の前の包丁と鋏を見つめることしか出来ない。
「結局縄が……」
煩わしさに壁にもたれて身を捩らせる、しかしそれで解けるなら本末転倒、当然縄目はびくともしない。
「うぅ……」
目に涙が滲んだ、昨日の自分が悪いわけではないがそのタイミングの悪さを呪った。すっかり気落ちしたゆいは寝室に戻ると、ベッドに身を横たえて疲れた身体を休めつつ受け入れられない友達へのSOSコールの事を考えた。
「もう、誰かに助けてもらうしかないよね……」
覚悟を決めようと自力ではどうすることもできないミチミチに食い込む縄に視線を落とすが、込み上げるのは諦めより羞恥、そして友人が去っていく恐怖だった。自然とゆいの身体は縄から抜け出そうともがき出す。
「……っ…………ん……」
縄の食い込む身体に視線を固定して、ゆいはもぞもぞと身体を動かし、胸縄をこねくり回した。
「ふっ……ぅ……」
ぐっと力を込め縄を鋭く軋ませてみる、縄は僅かに食い込むだけで全く緩む気配はない。そのまま胸を逸らしてみる。
「ん…………っはぁ……」
やはり縄は反り返るゆいの身体のラインにピッタリ張り付くのみで、外れる気配はまるでない。
「仕方ない…」
ゆいはため息を吐き机の前まで移動すると、充電されているスマホを後ろ手に掴んだ。
「あれまだ11時30分なの?」
最後に時計を確認したのはロボットを組み立て終わった直後、その時の時間は10時45分、縛られる肯定も入れるともがき始めてからまだ30分も経っていなかった。
「まだ時間はある……」
スマホを机に戻すと、再び縛られた身体へ視線を落とした。
「もう少しもがいてみよう」
時間の許す限りは絶望的な縄目に抗おうとゆいは身体を再びもがかせ始めた。
「むぅ……くっ…………うぅ……」
肩をぐいぐい動かして胸縄をずらそうと試みるが胸縄は、閂、股縄、襷縄、によって完璧に固められていてほんの僅かにもずれたりせず肩の上下に合わせてぐねぐねと動くだけだった。
「くぅ……ん……」
背中で組まされている前腕の交点も胸縄と完全に連動しているため全く上下に動かせない。
「んんっ……くそっ、解けてよ」
あまりにも解けぬ素振りを見せない縛りに、ゆいはベッドに身を投げ、苛立った様子でますます強引に身を捩らせ始めた。
「ぐっ……ふっ……くっ…はぁ…はぁ……」
【挿絵はこの辺りを描いてます】
必死の表情に対して両腕は綺麗に組まされた状態から一切動かない。
「んぅ…………むっ……うぅ……」
縄がより鋭く大きく軋み必死の抵抗を吸収してゆく、ゆいは歯を食いしばり夢中で身体をもがかせるが、激しい抵抗は長くは続かない。
「んっ……んぅぅっ……もうっ……」
最後にぐぐっと一際懸命に力を込めるとぐったりと力を抜いた。
「はぁ…はぁ……やっぱり解けないよ……」
もがき始めてからまだ一時間も経っていないが、ゆいはすっかり疲れた様子で締め付けられた胸を上下させ苦しそうに息を整えている。
やがて呼吸が整うと、スマホの置いてある机へと移動した。
時間のある限りもがき続ける予定だったが、友達がすぐに駆けつけられるかは分からないし、よく考えてみればトイレに行くこともできない、何よりもがき続けるだけ時間の無駄だとこれまでの縄との格闘でゆいは十分学んだ。
「もしもし?ごめん事情は話せないんだけど、今すぐ家に来れないかな?」
「どうしたの?大丈夫?」
「うん……」
「今家にいないから、一時間くらいかかるけど」
「うん大丈夫」
「分かった」
「ごめんねありがとう」
何とか友達に連絡を取ると、ゆいは再びベッドに戻り腰掛けた。
「一時間か……」
頭の片隅にずっとあった「このまま解けなかったら」という不安は なくなった、そうなると疲労感に押しやられていた羞恥心がどんどん大きくなり、少し自暴自棄になっていたゆいの思考は現実に引き戻されていく。
「んっ……っ……む……」
無理と分かりつつも一時間の猶予の中、どうしても諦めがつかず、未練がましくゆいはもがいた。
「ふっ……はぁ…………むぅ……」
大きく身体を左に捩らせた、続いて二の腕を広げようとグッと力を込める、ジャージ越しに縄が食い込みミチミチと音を立てながらゆいの胸を浮き上がらせた。
「ん……くっ……」
縄目は緩まないがゆいに焦る様子はない。ただもがき続けていた、騙されていると思いながらも美味しい話についていってしまう様に、解けると期待はしないが抵抗はやめない、心と身体が矛盾した状態。
ゆいは僅かな呻き声を漏らしながら、懸命に身体を捩らせ続けた。
「ん……」
通知音が響き、スマホのロック画面にはあと10分で到着するという友達からのメッセージが表示される。
ゆいは最後の力を振り身体を思い切り捩らせた。
「はぁ……くっ……ん゙ん゙!……んっ……」
ギギッ……ギチチ……
「ダメか……」
結局菱縄縛りは全く緩むことはなかった、ゆいは首を項垂れそれ以降もがくことはなく友達の到着を待った。
………………………………………………………………
それから……
「ちょっ、大丈夫?」
「うん」
「とりあえず何か切るものを」
………………………………………………………………
「何があったの?」
「えっと……家に帰ったら知らない人がいて、その人に」